2018年2月1日

先週末、いわきに行った。いわき総合高校という高校で演劇を観たかったからで、この高校に行くのは今回で4回目になる。自分が通っていたどころか、そもそも縁もゆかりもない土地の高校を何度も訪れるのは不思議な気分だ。

ウェブサイトでバスの空き状況を確認し、30分後に出発するバスの予約を済ませて東京駅へ向かう。いわき行きのバスは東京駅八重洲口のバス停から出発する。時刻は昼過ぎ。バスは随分と空いていて、自分の隣にも後ろにも誰も座っていなかった。朝や夜ならともかく、土曜日の昼に東京からいわきへ向かう人などあまりいないのだろう。

東京駅を出発したバスは、首都高に乗り、隅田川に沿って北上してゆく。両国、浅草、堀切──首都高から隅田川と、隅田川の向こうに広がっている街を眺めるのは気持ちいい。そのことをいわき行きのバスに乗る度に思い出す。日頃クルマを運転しない自分にとって、隅田川沿いの首都高はいわきへ向かうための道路で、堀切ジャンクションを境に川から離れてゆくのは見慣れぬ土地へ分け入っていくような感覚ともいえるし、どこか離陸していくような感覚があるともいえる。大抵、堀切ジャンクションを超えると外の景色を見ることに飽きてしまうのでそこからいわきまでどんな道を走っているのかほとんどわからない。

いわき総合高校はいわき駅ではなくその隣の内郷駅のすぐそばにある。いわき駅から歩いていけなくはない。いわき駅から内郷駅の間にはジュネスというサンドイッチの美味しい喫茶店がある。ソファもやれていてとにかく雰囲気がいい。トイレの雰囲気すらいい。でもこの日はなぜか電車に乗って内郷駅へと向かった。

いわき総合高校で演劇を観終えて外に出るとあたりは真っ暗で、吹きすさぶ風が冷たかった。たまたまいわきを訪れていたMさんと連絡をとって、いわき駅で落ち合うことにする。電車の席の向かい側には明るい髪色の男性二人組が座っていて、洋服の話をしていた。「お前が着てるそれ、この前セールでめちゃくちゃ安くなってたよ、それいくらで買った?」「18,000円くらいだったかな」「15,000円とかになってた」「マジかあ」。あんま値段変わらないなと思った。

いわき駅でMさんと落ち合って、何か食べようということになってホルモン屋に向かった。その店はMさんが一昨年の夏に訪れた店だそうで、大層美味しかったのだがそれ以来一度も再訪できていなかったのだという。店名がわからなかったので食べログの店内写真で記憶を辿り、当たりをつけてお店まで向かった。満席。

しぶしぶ以前も訪れたことのある中華料理屋に向かって以前も食べたことのある名前のよくわからない定食を食べる。この中華料理屋で定食を頼むとなめことわかめとネギの入った味噌汁がついてきて、それを飲むたびに、なんで味噌汁なんだろうなと思う。

お店のドアが開いて、誰かが入ってくる。ふと入り口に目をやると、そこに立っていたのはいわき総合高校の校長先生だった。Mさんと校長先生は前から仕事を通じて知り合っていたし、ぼくもなぜか流れで知り合いになっていた。とはいえこんな場所で会うとは思わなかったものだから、「おお!」とお互いに声をあげ、折角だからと同じテーブルを囲む。

遅れてほかの先生も来るらしかったのだが、結局そのあと誰が来ることもなく、校長先生が電話で確認してみるとそもそも違う店に集まることになっていたらしい。「店に入ったらMさんともてくんが居たから、ここなのかと思って」と先生が電話で話している。先生はぼくのことをもてくんとかもてさんと呼ぶ。

当初集まる予定になっていたお店に向かうべく、流れでMさんとぼくも店を出た。東京生まれの自分には時間をかけて帰省するような土地がなかったし、同じ場所を何度も訪れるような経験もなかったから、いわきは少しずつ自分にとって仮想故郷みたいな土地になっている。先生にそう話すと、先生は笑いながら「いつでも歓待しますよ」と言った。「歓待」というのはいい言葉だ。そんな話をしているうちに、当初向かうはずだった別の中華料理屋の看板が見えてきた。